TDT〜100マイル共走!
2017年5月27日、28日の2日間にわたりTDTという100マイルをグループで走るイベントに初参加した。Tour De Tomo。発起人は井原知一さん。(愛称トモさん)。トレイルランニングの世界ではかなり有名かつ人望の厚い人です。
TDTに参加するには前回完走者からの推薦があって、かつ抽選なので希望したからといって走れるわけじゃない。今回はワラーチ仲間のゆかさんの推薦、その後の抽選を経て参加することが決まった。
ワラーチ族の繁栄という使命も担って・・・
その後、FBグループに招待され、ポツポツと情報が入ってくる。
3月25日、Captains bookというドキュメントがアップされた。
開催日、場所、持ち物、こここまでは通常の大会要項みたいなものだけど、その後に“憲法”という項目がある。
1項「T.D.Tはレースではありません。100 マイルを 24 時間くらいで完走を目標としたグループペース走です。」ふむふむ。さらに読む。
5項「ロッテリー後の参加資格」当選したからと言って参加できるわけじゃないんだ。トレイルや公園のゴミ拾いと衣類や文房具のドネーションをすること。ちょっと変わってるけど、社会の為になることだからやってみよう。
その後、雲取山で拾活。
17項「KUGISAN」 くぎさん?なんじゃそりゃ。スイーパーではないけどスイーパーみたいに最後尾についてくれる人かな?なんだかよくわからん。まさかそのKUGISANに自分がお世話になるとは想像だにしてませんでしたが・・・その件については後ほど。
21項「怪我、道迷い、ハンガーノック、全て自業自得になります」なんか厳しいなぁ。その真意は? まっ、走ればわかるだろ。
22項「弱音を吐いたり、ネガティブな事を言った場合は即失格となります」マジかっ(汗) 常にポジティブであれってことやな。TDT語みたいなのが書かれている。
例1)「疲れた」→「気持ちいい」
例2)「眠い」→「まぶたの裏側を見てた」
例3)「攣った」→「脚が熟成した」
例4)「お腹がPP」→「お腹が踊った」
例5)「捻挫した」→「可動域広がった」
例6)(靴に)「穴が空いた」→「ベンチュレーションが効いていいぞ」
例7)ネガティブな言葉の前に「ゴー!ゴー!」と付け加えれば、失格にならない 。ゴー!ゴー!痛い、とか。
なんだかとんでもないイベントに参加したようだ。その後、「脚が熟成した」を連発する事態になるなどこの時は思いも寄らなかった。その件は後ほど。
これ以降、TDTに敬意を表して「攣った」は「熟成した」と書く。
さらに読み進むと“TDTイズム”とある。
「いい人であれ!人に敬意を払え!何事にも責任感を持て!クールな人であれ!でなければ、このコミュ ニティーに参加しないでくれ」まぁ、どっちかというとそういうタイプでいたいと思ってるし、まぁ参加して場違いってことはないか。
そして“TDT の誓い”へ。
「TDT 中に私がたとえ怪我をしても、もしくはロストしても、はたまたハンガーノックになったとしても、全て 自業自得です。アーメン。」自業自得という言葉は世の中一般ではネガティヴに使うけど、仏教本来の意味は、「自分の行為が自分の運命を生み出す」であり、そこにはネガティヴもポジティブもない。TDTは、常にポジティブであれと言ってるんだからきっとポジティブな自業自得だろう。
captains bookを読み終えたものの、実感の湧かないままイベント当日を迎える。
5月27日、スタート地点は多摩川の河口に近く、旧穴守稲荷神社の大鳥居だ。このイベントでは、トレランでお馴染みのSALOMONブランドに因んでか、サロ門と呼んでる。
ここから多摩川河川敷や土手の歩道を行く。上流へ60km弱進んだところで多摩川を離れ、羽村から新奥多摩街道を通って青梅へ。青梅鉄道公園からトレイルに入って高水山の常福院まで。ここが折り返し地点だ。同じルートを折り返してサロ門へ戻る。約160km、ロード約80%、トレイル約20%だ。
スタート前に同じくゆかさんの推薦で一緒に走ることになったワラーチ仲間のNobbyさんとTDTで初めて出会ったルナサンダルのアキラさんのサンダルトリオでお決まりの記念写真。サンダルランナーは足が顔なのだ。
さてスタート時刻の11時が近づいた。トモさんの呼びかけで皆んなが手を繋いで輪を作る。
そしてあの誓いをトモさんの後に続いて詠いあげる。
「・・・・全て自業自得。アーメン!」
これは気合いが入るなぁ。
11時になりスタート。
速さを競ってるわけじゃないので、和気あいあいとおしゃべりしながらほぼ一定のペースで走ります。
陽射しが強くて暑いけど、芝を吹き抜ける風が気持ちいい。
最初の休憩ポイントの二子玉川のセブンイレブンへ到着。(約20km地点)
暑いので大好きなジャンボモナカを食べる。みんな思い思いに好きなもん買って、食べて、飲んで、しゃべって。このゆるゆる感はなかなか良いではないか。
すっかりリフレッシュして出発。
多摩川沿いを再び走り38km地点に到着。ここが最初のデポだ。かなり汗をかいたせいか早くも脚が攣り始める。塩熱サプリは30分に1個と決めて水分と合わせて摂取してたのだが・・・ 不安。
ふと土手の下の方を見るといつの間にか女子ランナー達が円陣を組んで寛いでるではないか。まるで女子会だ。
それに比べて男どもは思い思いに土手に座ったり寝転んだり。
コミュニティーの形成力においては男子より女子の方がはるかに優れてるようだ。付け加えるなら彼女達はこのまま100マイルを走りきっちゃうんだからこれは最強の女子会だ。
出発してしばらくするとやはり脚が熟成してきた。ペース落としたり、歩いたりして誤魔化しながら前へ進むがなかなか治らない。グループからどんどん遅れ始めて焦る。焦るほどに熟成は進む。とにかく前へ行くしかない。
途中、2回くらいコンビニに寄った。
超長距離では、ここでしっかり食べたり、飲んだり、脚を休めたらするのが大事なんだけど、なにせ遅れてるせいもあって落ち着かない。慌ただしく先を急ぐ。まだまだメンタルが弱いな。
そもそも走り出しのペースの読み違いがあったかも。グループ走といっても先頭、中間、後方とグループは分かれる。自分なんかは後方グループでゆっくり立ち上がった方が良かったんじゃないか。結局、脚が熟成してしまって後方どころかそこからさらに遅れて孤独に走るハメに。自業自得だ。
でもこういうシチュエーションって嫌いじゃない。これまでもそうだったように、こういう時にこそ学ぶことは多い。自業の結果、学びを自得する。自業自得ってそういうことだろ。常にポジティブであれ!
悪戦苦闘の末、ようやく69km地点の青梅鉄道公園へ到着。ゆかさん、タルさんも出迎えてくれた。ここでゆかさんに熟成した脚をケアしてもらった。塗り薬とか足指体操みたいなやつとか。こんなにも熟成しやすい脚のくせして、塩熱サプリくらいで予防法や対処法をあまり知らない自分を反省。
ここらから折り返し地点の常福院との往復約24kmはトレイル区間だ。
熟成した脚が不安だけど、ゆかさんのお陰でだいぶマシになったし前進あるのみだ。トモさんは全体を見守りながらつかず離れず走ってくれていて、鉄道公園からは一緒にスタートした。
トモさんによれば「今からでも十分に24時間完走は可能」だと言う。実感としてはわからないけど、その気になる。トモさんにそう言われると俄然その気になる。
そして真っ暗闇のトレイルに入る。緩やかにアップダウンを繰り返しながら高度を上げて行く。脚が再び熟成し始める。登り斜面で踏ん張れない。立ち止まることがだんだん多くなる。途中、トモさんにスペシャルマッサージを施してもらってかなり和らいだ。感謝感激。
トレイル区間では誰かしら見てくれていたので、メンタルはかなり救われた。
途中、榎峠のエイドで、温かいスープや塩味が効いたお漬物をいただく。美味しい。真夜中にこんな山の中でこんなに手の掛かった美味しい料理をいただけるなんてほんとうに有難いことだ。
榎峠を後にして折り返し地点の常福院へ向かう。登りが全然踏ん張れない。不思議と下りは走れるのが救いだ。
常福院の階段を牛歩の如く登る。どうも最後尾になってしまったようだ。
常福院では達成感を感じる余裕もなく、即折り返す。その後も、下りは走って、登りは牛歩の繰り返し。脚が上がらず転けたりもした。
そんな自分に常福院から女子ランナーがつかず離れずついてくれている。途中名前を聞きあって黒田さんと知ったけど、KUGISANだというところまで頭が回らない。
そのKUGISANが途中で杖代わりに倒木を拾ってくれた。杖を使うと登りも負荷を分散できるのでだいぶ楽になった。「KUGISANの魔法の杖」と呼ぼう。トレランポール禁止のレースも結構あるので、いざという時、倒木を使えばいいんだ。学ぶこと多し。
鉄道公園が近づき道が広くなったところで「後はまっすぐだから先行くね」といってKUGISANは颯爽と暗闇に消えていった。もしかして置いてかれた・・・?
鉄道公園に到着。ゆかさん、タルさんが再び出迎えてくれて安堵。トモさんが、午前1時にここを出発すればサブ24圏内だと言ってたのを思い出す。もう1時半だ。ゆっくりしている場合ではない。荷物を整えて出発。
平地に入って脚の熟成はだいぶ治ってきた。出発してすぐのコンビニでホットコーヒーとおにぎりを補給。少し気持ちに余裕が出てきたので、スタッフの写真撮影にも元気で応える。
朝の3時に多摩川の堤防に着く。
脚の熟成からようやく解放されて、まずまずのペースで走り続ける。夜が明けると鳥のさえずりが聞こえ出し、緑に包まれる。空気は冷んやりとして草木の香りが濃い。至福の時間だ。100km以上も走ってるのにこのままずっと走っていたい気分になる。
ここはパワースポットだ。
日が昇るにつれて気温が上昇。陽射しがきつい。河川敷は太陽の光を遮るものが無くずっと陽射しを浴びる。
TDTキャップはどうしたっけな?
こんなキャップです。
たしかデポで預けてしまったはず。
ザックに入れとけば良かった。
そんな風に思ってると、目線の先にTDTキャップが落ちている。
誰か落としたんだろう。流石に人の帽子を使って汗だくにするわけにはいかないので、拾ってザックに引っ掛ける。残り38km地点のデポでスタッフに落ちてたキャップを渡す。
後日談だけど、実は走り終わってからスタッフさんとのやりとりで、どうやら拾ったキャップは自分のものではないかという疑惑が持ち上がる。そんなバカな! でも状況証拠を積み上げていくとその可能性は否定できない。
もしかして幻覚?
超長距離走って幻覚を見るという話しはよく聞く。だけど、これまで30時間寝ないで走ったレースでも自分は眠くもならないし幻覚も見ない。幻覚を見るまでは限界ではない、いつか幻覚を見てみたいとさえ思ってる人間なのに?
持ってないと思い込んでたキャップのこと考えてたからキャップが現れたのか?
自分で落として自分で拾った?
真実はわからないけど、それが落とし主が見つからない唯一のキャップだったらやっぱり自分のものなのかもしれない。
事実かどうかなんて関係なく人間は見たいもの見る。
さらに進んで残り25kmくらい。暑さで気持ちが萎えてたところ、前方からなんとゆかさんが走って来るではないか! 止まらず走り続ければギリギリ24時間に間に合うという。24時間切りは半ば諦め、何時になってもいいからゴールには戻ると開き直っていたのでちょっとびっくり。
ゆかさんがペーサーとなってゴールを目指す。
声掛けしてくれたり、冷たい水をコンビニで買ってぶっかけてくれたり、アイスクリームをもらったり、ザックを背負ってもらったり、キャップを貸してくれたり、至れり尽くせりで引っ張ってくれる。これがペーサーというものなんだ。いつか自分も誰かのペーサーをやる時があったらこうするんだな、なんて考えたりしながら、先へ進む。
しかし、暑さで頭が朦朧とし始めると急速に走る意欲が減退。諦めの気持ちが脳を支配し身体にブレーキを掛けるのだ。かなりの距離を歩いた末に、とうとう木陰に寝転んでしまった。如何ともしがたい無気力に包まれてしまっていた。
しかし、しばらく横になっていると、このまま寝ちゃだめだ、ゆかさんに申し訳ないと意を決して起き上がる。そして歩いたり、走ったりしながら先へ進む。
炎天下でこんなダメダメな自分に気長に付き合ってくれたゆかさんに本当に感謝。
ゆかさんがいなかったらもっと長い時間あの木陰で寝入ってしまってかもしれない。
残り10km地点の私設エイド(通称ガス橋エイド)に到着。橋の下なので陽射しが無く快適だ。飲んだり、食べたり、エイドのスタッフと喋ったりしてるうちに、だいぶ正気が戻ってきた。
キャップはゆかさんの借り物です。
「残り10km走ってゴールしよう!」
ゆかさんから気合いもらっていざ出発。
結構走れるやんか。
限界って何?
No limitsなの?
都心のビル群に心が踊る。
やっと帰ってきた。
ゆかさんがペースを上げる。
自分もペースを上げる。
走れるぞ!
サロ門が見えた!
声援が聞こえる!
何人かが門の前でアーチを作ってくれてる!
誰もいないゴールを覚悟してたからすごく嬉しい!
ついにゴール!
25時間。
24時間切れなかったけど、戻ってこれて良かった。
最後の10kmをしっかり走ってゴールできて良かった。
全ては報われた!
No limits!
もちろん独りの力ではない。
ゆかさん、トモさん、KUGISANをはじめTDTに関わった仲間全てに感謝!
もし、神様がもう一度TDTを走らせてくれるチャンスを与えてくれたら、かならず24時間以内に戻って完走する。
その日のために自分を鍛えるんだ。
そう誓って僕の初TDTが終わった。
アーメン!