第4回甲州道中鳥の旅〜三度目の正直
2年ぶり3回目の甲州道中"鳥の旅"(215km)を走った。
第1回大会は最長距離への初チャレンジ。
途中、脚を痛めて八王子(180kmくらい)でリタイア。
第2回大会はリベンジ。
なんとか完走。
この回まではスタートタイムが22時、23時、24時と選べた。フィニッシュタイムは22時の一本だけなので制限タイムは46時間〜48時間と幅がある。当然の事ながら完走したいから制限タイムの長い22時スタートを迷わず選択。結果は46時間7分で完走。
実は昨年の第3回大会からスタートタイムは24時の一本。なので制限タイムは46時間。つまり昨年のペースじゃ7分オーバーでDNFってことや。
直近の月間走行距離はどうかというと。
1月 71km、2月 61km、3月 48km、4月 84km、5月 34km。
6月も低調だったけど大会2週間前に夏休みの宿題みたいに45km走、1週間前に30km走をやったくらい。
制限時間も短いし、走り込んでないし、こんなんで完走できるのだろうか?
4月に出資関係のある会社へ出向した。経験の薄い分野の仕事の管理職になって4月、5月、6月は四苦八苦の毎日。職場の人間関係にも馴染めず何度か心が壊れそうになった。
メンタル結構自信あった筈なのになぁ。もし完走できなかったら更に自信無くすかも。でも完走できたら生まれ変わるかも。だけど完走にこだわって身体壊して月曜日会社休むことになったらまずいしなぁ。
そんな複雑特な思いと不安を抱いたまま3回目の鳥の旅が始った。
【6月28日】
どうしても出席しなければならない会議があり仕事は休めず。新宿19:35発の高速バスで下諏訪へ向かう。3時間程なので少しでも寝れるといいんだけど30分ほどしか寝れず。
スタート地点の下諏訪大社に到着。
これまでの"鳥の旅"や"風の旅"で出逢った懐かしい人達との再会。近頃はFacebookで繋がってるので会ってなくとも近況を知ってたりするけど、やっぱりリアルに会って顔の表情を見て話したり握手するのが良い。独り旅ではないんだと思うとリラックスした気持ちになる。
スタッフもランナーも共に旅の仲間だ。
【6月29日0:00】スタート:下諏訪大社秋宮
いつものことだがスタートしていきなり走り出す人はいない。
蒸気機関車のようにゆっくりと動き出す。暗闇の中へヘッドランプに照らされら隊列が吸い込まれていく。
ペースが上がってくると先頭と最後尾の距離が徐々に広がっていく。初っ端どの集団についていくかって、その後のペースに多少なりとも影響があるように思う。いつもは真ん中くらいだけど、今回は制限時間も気になるし、もし完走するなら月曜日のことを考えて早くフィニッシュしたいので先頭集団について行くことにした。そうは言っても走力の違いがあるので段々とばらけてくる。気がつけば独りで走っていた。
夜は景色がないので走りに集中できる。3回目ともなると見覚えのある場所が結構あって気持ち的に楽だ。だからと言って過信せず、ちょっとでも自信がない時は地図を見る。過去に痛いロストもあったから。
やがて夜が明け始める。
薄明の旧道を淡々と走る。
小鳥や鶏の鳴き声が聴こえる。
【6月29日5:10】CP1:台ヶ原宿ふれあい休憩所(41km)
CP1から間もなく古道の入口に到着。
いつもと変わらぬ景色だ。
しかし更に先へ進むと何やら見慣れないものが。
なんと太陽光パネルだ。なんと無粋な。せっかくの古道の雰囲気が台無し。かなり残念な気持ち。
古道の出口側はいつもと変わらぬ景色でホッとした。日本人は、古いものやそういうものを含めた周囲の景観をもっと大切にした方がいいと思う。
台ヶ原から先、旧道に入ったり出たりする。
前回のブログでも書いたが、新道(国道)はクルマの道、旧道は人の道。
やっぱ旧道は気持ちいい。
旧道沿いの宿場町の保存のレベルは様々だ。水路が残ってるところは保存が良い方だろう。今どきの考えだと、人が落ちたら危ないとかでコンクリートの蓋で覆ってしまう。昔は、水は蛇口をひねって出てくるものではない。人の暮らしは水路を流れる水と共にあったと思う。清らかな水の音を聴きながら昔の面影を想像してみる。
歴史を感じさせる古家を眺めるのもまた良し。維持は大変だろうけどいつまでも保存してくれるといいな。
旧道を走ってると農家のおばさんが「頑張って!」と言って何やら手渡してくれた。
ブルーベリーだ!
一粒一粒、感謝しながら食べる。
山間を抜けると、目の前にびっしりと家が立ち並ぶ大きな市街地を一望する場所に辿り着く。甲府盆地だ。心が躍る。江戸時代にタイムスリップしてここからの景色を見てみたいもんだ。
これまでの2回は甲府市内はあまりの暑さにバテてしまったが、今回は曇りのせいかそんなに暑くなくて助かった。
【6月29日 IN10:54 OUT11:49】第1エイド:石和(スパランドホテル内藤)(75km)
石和エイド到着。前回と場所が変わったけどお風呂がある点は同じだ。どうせまたすぐに汗かくんだけど、一旦汗を流しウェアを着替えると気持ちをリセットできる。エイドでフルーツやナッツをいただいてから早速風呂に入ってリフレッシュ。昨年は2時間20分滞在したけど今年は制限時間が気になるので1時間弱で出発。
長距離を走ったら身体を休めることは大事なんだけど、一旦長く休むと次に走り出した時に脚が棒のようになって思うように走れない。脚が棒なら棒をどう使って前に進むかを考えればいい。昨年のGWに“風の旅”を走った時に一緒だった三ノ宮さんに超長距離の走り方を聞いたら“コンパス走り”というのを教えてもらった。コンパスの脚は曲がらない二本の棒だ。それを人間だとしてどうやって前へ進むか? そんなことを思い出しながら脚を動かしてると徐々に走れるようになってきた。脚の筋肉を使わずアキレス腱の伸張反射と腰や上半身を上手く使って走る。一本歯下駄で走るのと同じ要領だ。
笛吹を過ぎると勝沼まで延々と登り坂が続く。過去2回は日差しが強く気温も高くてかなりしんどかった記憶があるんだけど、今回は曇り空でそんなに暑くない。ほぼ脚を止めずに前へ進む。
勝沼が近づくと道の両側に葡萄園が立ち並ぶ。黄緑色した葡萄の房がたわわに実る。収穫はいつ頃なんだろう。
【6月29日14:13】CP2:栢尾古戦場址(近藤勇像)(87.5km)
勝沼を過ぎて間もなくCP2に到着。甲府盆地を抜け景色が変わる。山が迫ってきた。国道を離れ旧道に入る。
いよいよ笹子峠だ。
最初の急坂を過ぎると緩やかになる。走って走れないこともないが走ったところで歩くのに毛が生えた程度のペースにしかならない。体力を消耗するだけなので歩き通すことにした。
峠道をひたすら歩いて登る。山の中は空気が美味しいし、木々の緑に癒されるのでさほど疲れない。そして古道の入り口に差し掛かる。
舗装路を進むこともできるがもちろんトレイルを進む。
プチトレランを楽しむ。
古道を登り詰めると一旦舗装路に出る。
右手に笹子トンネルが見える。トンネルを抜けて峠を越えることもできるが、本物の峠はトンネルの上の方にある。舗装路を横切り再びトレイルに入る。
霞みがかった森はとても幻想的だ。映画のシナリオみたいに霧に包まれている間にタイムスリップして江戸時代へ・・・などと有らぬことを妄想しながら峠へ向かう。
ようやく峠に着いた。反対側へ下れば第2エイドが待っている。
トレイルを下ると再び舗装路に出る。右手にトンネルがある。さっき見たトンネルの反対側だ。つづら折りのロードをしばらく降りると「矢立の杉」の入り口がある。
樹齢千年を超えるそうだ。何度見ても圧倒される。直接手の平で触れてパワーを授かりところだが、残念ながら柵があって近づけない。
「矢立の杉」の後、ロードには戻らずそのまま谷筋のトレイルを下る。
ほぼ一直線で傾斜も緩い。トレイルは柔らかくて脚に優しいせいか100kmも走って来たことを忘れるくらい気持ちよく走れる。
トレイルを抜け再びロードを走ると間もなく待ちに待った第2エイドだ。
【6月29日 IN17:14 OUT17:52】第2エイド:黒野田(103km)
笹子峠を無事越えてみんな安堵してかエイド内は明るく和やかだ。しかし103km走ったってまだハーフだ。これからが超長距離ランニングの真骨頂なのだ。兎にも角にも腹ごしらえ。
名物カレーライスを大盛りでいただく。美味い!
超長距離ランニングでは「食べる能力」が極めて重要なのだ。食べなきゃエネルギーが枯渇してどんなに走力があったって脚を動かすことができない。
初めて「鳥の旅」を走った時、途中で食欲を喪失した。どうやら長時間汗をかいてミネラルを失ったらしい。コンビニで行き当たりばったりに食べてるとカロリーは補給できるかもしれないけど、ビタミンやミネラルはちゃんと補給できてるかどうかわからない。食べたものを消化してエネルギーとして利用するためにはビタミンやミネラルが必要なのだ。この時は足首を痛めて八王子でリタイヤしたけど、それだけが原因ではなくてカロリーやミネラルの補給を含めた身体全体のバランスの乱れもあったと思う。
2回目に走った時は、ラン仲間のアドバイスがあってビタミンやミネラルを安定的に摂取するためにサプリメントを導入した。本当にそれが効いたのかどうか定かでは無いが、2回目の“鳥の旅”では食欲を失うこともなく、最後まで脚も動いて無事完走。それ以降、超長距離を走る時には必ずビタミンとミネラルを摂取するようにしてる。(ブラシーボかもしれないが)
再び旅へ戻る。
しっかりと腹ごしらえして第2エイドを後にする。
大月へ向かって下り基調が続く。下りは楽だけど走りが雑になって脚を痛めやすいので要注意だ。速く走ることよりも丁寧に走ることを心掛ける。
途中で陽が沈み夜になる。ところどころ旧道に入ると真っ暗で車通りもほとんど無い。寂しいけどホッとする。車がビュンビュン行き交う国道を走るのはストレスだから。
大月を過ぎ、猿橋に着く。(21:17)
観光名所なんだけど夜に訪れる人は鳥の旅ランナーくらいだろう。
誰もいない猿橋を独りわたる。
下鳥沢から国道を離れ犬目宿へ旧道の坂道を延々と登り坂だ。もちろん歩き通す。
途中、小雨が降り出す。夜だから景色も見えず、車もめったに通らない。雨音と足音だけの単調な時間。急に睡魔に襲われる。そりゃそうだ。金曜日の朝6時に起きて、仕事して、バス乗って、0時から走って、朝を迎え、走って、また夜が来て、今ここにいる。走り始めてから22時間ほどだけど、起きてる時間は40時間にもなる。
(走れ)メロスを超えたかも・・・
眠くてうつらうつらしながら歩いていると、暗闇の中に人の声が聴こえる。幻覚か?
ヘアピンカーブを曲がると灯りが見える。こんな時間に何やってんだろう。近づくと手を振る人。着いてみるとまさかの私設エイドだ。何にも知らされてないので喜びが倍増、いやこのロケーションだから10倍増だ。
一言で表現するならサプライズ・エイド!
人と話すことだけで癒されるんだけど、ここでいただいた温かくて甘いカフェラテに最高に癒されてモチベーション急上昇。嬉し過ぎて写真撮るの忘れてしまった。
元気もらって出発。間も無く犬目宿に入る。
【6月29日23:06】CP3:犬目宿場址(130km)
小雨と霧に包まれて宿場の街並みはほとんど見えず。先を急ぐ。
犬目宿を抜けてすぐ車道をそれて細い道に入る。道が段々と細くなり、ついには草茫々のトレイルにぶち当たる。先は真っ暗で道なのかどうかもわからない。独りだし山の中でロストしたらヤバいので引き返し車道を進む。ここは別の機会にもう一度トレースしたい。
その後も人気の無い寂しい旧道が続く。コンビニには下鳥沢から旧道に入ってずっと無い。上野原でようやくコンビニに入る。
コンビニは旅ランのオアシスだ。働き方改革の流れもあってコンビニ24時間営業が問題になってるけど、こんな時にはほんとありがたい。
ようやく相模湖の入り口まで来た。ところどころ国道から外れて旧道に入るが、暗いし複雑なのでロストしないよう地図を何度も確認しながら進む。
【6月30日 3:42】CP4:小原宿(154km)
小原宿の少し先の美女谷で左の小道に入る。難所小仏峠へと続く旧道である。
第1回の時は、寝不足のせいか思考停止状態で国道をまっすぐ進み大垂水峠まで行くという大ロストをやらかしてしまった。同じ誤ちは犯さない。
小仏峠へと続くトレイルを登り始めた頃に夜が明ける。せっかくのトレイルが真っ暗じゃもったいないのでちょうど良かった。
小仏峠に到着。小休止したいところだが雨が降ってるので先を急ぐ。
峠を下ると第3エイドだ。
【6月30日 IN6:05 OUT7:45】第3エイド: 裏高尾(梅の郷まちの広場)(162km)
エイド到着。ここまで来ると東京へ来たのも同然な気がして安堵する。とは言え交通量が多くて快適とは言えないロードがこの後53kmも続くので楽ではない。温かいうどんやフルーツをいただいたところで少し仮眠をとる。2回目の時はここで1時間程度仮眠した。今回も1時間のつもりだったが30分ほどでハッとして目が醒める。ここで二度寝したら寝過ごしてしまいそうなので、仮眠を切り上げ出発することにした。たったの30分でも睡眠をとると心身がリカバリーする。
交通量の多い国道を進む。信号が多いので速く走っても、遅く走っても変わらない。次の交差点を、信号が青に変わるタイミングで止まらずに通過できるようペースを微調整しながら走る。
エイドを出てしばらくするとどうもパワーが出ない。腹に力が入らない。エイド出るときにうどん食べたのにまたお腹に何か入れたい気分。100マイル走って脂肪燃焼し尽くして糖質補給しないとエネルギーが得られないのかな?
とにかくお腹に何か入れようと八王子でコンビニに入る。
2度目の朝ごはんを食べて再出発。
【6月30日10:42】CP5:日野宿本陣(154km)
相変わらずパワーが出ずペースは上がらないが、とにかく前進あるのみだ。
立日橋で多摩川を渡る。昔の人は船で渡ったのだろうがその頃の多摩川はどんな風に見えたのだろうな。
国立、府中、調布と進むがやはりパワーが出ずペースが上がらない。完走は間違いないだろうけどいったい何時に日本橋に着くのだろうかとちょっと心配になったりする。
ちんたら走ってたら第4エイドの手前で呼び声がする。なんとラン友の新川さんが家族連れて応援に駆けつけてくれた。FBの投稿見て走ってる位置のあたりを付けて車で逆走して見つけてくれた。近くのコンビニに入って休憩がてらひとしきり話して再出発。気分転換できたせいか、ここから第4エイドまでは不思議と調子良く走れた。やっぱメンタルは大事。
【6月30日 IN14:14 OUT14:34】第4エイド:調布(193km)
第4エイド到着。
椅子に座ってると女性スタッフが飲み物やフルーツを持って来てくれて至れり尽くせり。
極楽じゃぁ〜。
193kmも走ったご褒美だな。
こんな写真まで撮ってくれて男冥利に尽きる。
パワーアップしてエイドを後にする。
お陰でここから新宿までは信号機以外は脚を止めず、走りに集中できた。
雨の新宿に到着。(17:01)
傘をさして歩く大勢の人の隙間を縫うように進む。自分はかなり異様な姿だと思うが、特に注目されるわけでもない。都会では一人一人の存在は人混みに掻き消されてしまうのだろうか。
皇居のお堀沿いの歩道をよろよろと走る。ほとんど歩くようなスピードだ。後ろから皇居ランナーが颯爽と走り抜ける。まさか200km以上走ってここにいることなんて誰も想像できないだろうなと思うと、ペースは遅くても自分が誇らしい。自分独りの凱旋パレード、心の凱旋だ。
そしてついに日本橋に到着。
前回は夜だったけど今回はまだ明るい。前回より2時間遅い出発だったけど、前回より早く着いたということだ。2回目だけど感慨深い。
日本橋を後にゴールの浜町公園へ向かう。
【6月30日19:04】ゴール:日本橋浜町公園(215km)
フィニッシュ!
なんだか前回よりも全然元気。
記録は43時間4分。
100kmにも満たない月間走行距離でほんとうに完走できるのか? なんて心配しながらスタートしたけど前回より3時間短縮。
つまり月間走行距離なんて関係無いってことだ。超長距離ランは“走力”ではなく、“総力”で走るもの。 走り方、休み方、食べ方、心の持ち方、ルートファインディングなど・・・
“総力”なら年齢や性別も関係ない。
だから面白いのだ。
あらためてそう思う。
これぞ三度目の正直なのだ。