第2回上州武尊山スカイビューウルトラトレイル ワラーチ完走記
以前からブログを書いてみたいと思いつつも、腰を落ち着けて時間を割くのも面倒なもので登録だけの幽霊ブロガー(?)でした。しかし、今回はこの30時間を超える長きに渡るエキストリームなレースの記憶を文字に刻んでおきたい気持ちが強く、生まれ初めてブログなるものを書いてみました。
【7月18日】
今回偶然にも同じレースを走ることになったTwitter繋がりのラン友の滝澤さんと、三連休でごった返す東京駅新幹線ホームで無事合流。ランニング談義していたらあっという間に上毛高原駅到着。ここらかシャトルバスが出ます。外はけっこうな雨。厳しいレース展開を想像してちょっと不安。バスの待ち時間に昼飯食べようとレストランを探しますがありません。しょうがないので駅の立ちそばでうどんを食べてカーボローディング。トレイルランナーにとっては立ったままの食事などジョーシキでしょ。
受付会場に到着するとランナーが大勢集まってます。まずは荷物チェック。ランダムに指定された必携装備品6点を見せます。一つづつ指示される度に大慌てで探して出してはスタッフに見せます。まるで運動会の借り物競争さながら。無事チェックをパスしたらようやく受付です。年代別に列がありますが50代はガラガラで誰も並んでません。ラッキー!・・・というか俺ってひょっとして年寄り⁉︎
ここでやはり偶然にも同じレースにエントリーしてたTwitter繋がりのラン友、山本さんと合流。その日は滝澤さんと3人、同宿同部屋で寝泊まりします。
受付終了後は、ブリーフィングで鏑木さんによるコース説明。
コース前半の関門通過がかなりキツそう。このコース走れたら海外のどんなトレイルレースでも走れるそうです。つまり、ここをワラーチで完走できたら世界中のどんなトレイルレースでもワラーチで走れるってことだな。望むところだ!
ブリーフィングの会場で滝澤さん、山本さんのTwitter友達アイスマンさんと初対面。なんと偶然彼も同じ宿。出逢いとは偶然を装った必然なんだろうといつも思う。アイスマンさんがマイカーで来場されていたのでお言葉に甘え、便乗して宿に向かいます。会場を離れるにつれ道が細くなり、本当に宿があるのかと心配しましたが無事到着。ペンションABCです。
予約の時からなんだか頼りなくて不安だった宿の主人。案の定、2食付きで予約してたのに素泊まりになっていた。これが普通の旅行だと「ええぇ~、マジかよ!」ってことになるのですが、トレイルランナーたる者、そんなことで動じることはありません。粗食には慣れてます。 というわけで、部屋に荷物を置いて、アイスマンさんの車に再び便乗させてもらって、まずはコンビニへ夕飯の買い出しへ。
買い出しから帰ってある程度レースの荷造りを済ませたところで、せっかくだから、近く(かどうか気にもしませんでしたが)にある田園プラザへ散歩に行こうということになりました。どうやら日本一の道の駅らしい。
出発。宿の真ん前に見たこともない野菜の畑が広がってます。宿の主人に聞いたら蒟蒻だそうです。
おっさん4人が、あーでもない、こーでもないと駄弁りながら遠足のように田舎道を行きます。直前まで降ってた雨も上がり「本当に明日レースなの?」というくらいに、夕暮れ時の光に照らされたホビット庄のように美しい里山の景色を堪能しながら始終リラックス。
途中の神社で完走祈願。
田園プラザが近づいてきた頃、眼下に吊り橋が見えました。去年完走した山本さんによるとゴール直前にあの吊り橋を渡るらしい。「よし、あの橋を渡るぞっ!」と完走への意欲が湧いてくる。イメージできるかどうかって物事の実現性に大きく影響する。だから、この橋を見れたのは本当に良かったと思う。
18時に田園プラザ到着。ここで夕飯食べるつもりが18時に閉店。「日本一にしては閉まるの早いなぁ〜」と文句を言いつつも緑溢れる素敵な空間には納得。
帰路は、さすが強者トレイルランナーらしく山越えトレイルコースをチョイス。
石段激登り有り、シングルトラック有りの本格的(?)コース。本能が目覚めて上半身裸で雄叫びをあげる山本さん。レース前にこんなことしてていいのかと思いながら、みんなトレイルが大好きなんだと再認識。なんだかんだで5kmくらい歩いたんじゃないかなぁ~。まぁ120kmに比べれば誤差みたいなもんだけど。
その後、コンビニで買った夕飯を食べて風呂入って最後の荷物チェック。いつもは独りでレースに出ることが多いのですが今回は仲間がいるので皆さんのパッキングを参考にしながら思い切って軽量化しました。水入れてたぶん6kgくらいかな。
3時半の起床に備えて20時半には就寝。
【7月19日】
ずいぶんと前振りが長くなりましたがいよいよレース当日。お天気は晴れ。やる気がふつふつと湧いてきます。もちろん履物はワラーチ! この時はその後の泥地獄の何たるかを知る由もなく・・・
レースプロデューサーの鏑木さんから暑くなるので水分補給をしっかりとのアドバイス。
そしてスタート!(6:30) 長くて過酷な旅の始まりです。
標高差1500mを一気に登ります。渋滞気味ですが一列ですからメジャーレースのハセツネなんかに比べたら大したことありません。
高度が上がり森を抜けるとパッと視界が開け下界を一望。トレランに限らず山登りのこの瞬間がたまらなく好き。
2000m付近は残念ながらガスって景色が見えず。
見えないスカイトレイルを頭に浮かべつつ今度は一気に1200mくらいに下ります。岩だらけの急峻な登山道(トレイルと呼ぶ気がしない)です。
みんな恐る恐る脚を運びます。
自分はワラーチなので人一倍慎重に下ります。
この後に待ち受けていたのは泥々の登山道でした。開放的なワラーチは足裏とフットベッドの間にあっという間に泥が入り摩擦抵抗を失ってしまいます。こうなると単にソール下面と地面が滑るより厄介で、足が二重に不安定で重心がちょっとでもブレるとノーコントロール状態に陥ります。特に下りでは、身体の前滑りを鼻緒で受け止めるため紐に局所的に過大なテンションが掛かります。切れやしないか、皮膚が裂けやしないかとヒヤヒヤ。
半ばパニック状態で「俺はこんなところでバカみたいに何してんだろう」とか「こりゃ完走無理かな」と悲観的な気持ちに覆われていたその時、下の方から沢の水流の音を聴こえる。Facebook繋がりの泉田さんがワラーチで泥沼走った時、「沢で水洗いしたら復活した」って書いてたのを思い出して気持ちに明るさを取り戻す。シューズランナーにごぼう抜きされながらようやく沢へ辿り着く。
そして足をドボン。
冷たい水が心地良い。砂漠にオアシス有り、泥沼に沢有り。命拾いしたような気分。泥を落とし、気を取り直して出発です。その後も泥沼→沢→泥沼→沢を繰り返し、何度も心が折れそうになったけど、ワラーチも、自分も、なんとか耐え忍んで傾斜の緩い林道までなんとか下山できて一安心。林道、ロード、古道と心地良い道を進み、もうすぐ第2エイドだと思ってたら、ガーン!
何じゃこりゃ? スキーゲレンデをゴマ粒みたいなランナーが列をなして登ってる。鏑木さんはマゾかぁ? (そもそもこんなエキストリームなレースに出てる自分もドMかな?)でも泥沼に比べりゃなんてことはないなどと自分に言い聞かせてトボトボと登ります。
ゲレンデを越えて第2エイド到着。(宝台樹スキー場35km、13:46)
何はともあれ暖かい豚汁に梅干しぶち込んで頂きます。
なんだか居心地の良いテラス風の空間。
いかんいかん、こんなところで長居しては。ワラーチの紐を締め直し第3エイドへ向け出発。再びあの泥沼の急峻な登山道を登るのかと思うとちょっと憂鬱だけど、下りより登りの方が無難なはずなのでなんとかなるだろうと気を持ち直す。
往きには心の余裕もなく寄らなかった武尊山神社で完走祈願。
さっき下った泥沼登山道を、今度は泥沼→沢→泥沼→沢と登り、再び西の剣ヶ峰へ到着。相変わらずガスってたけど一瞬だけスカイトレイルが現れて気持ちが高ぶる。
花の写真撮ったりして余裕かましてたら雨が降ってきた。
汗も雨も同じだと前へ進む。そして最高峰の武尊山頂へ到着。寒くて心細いので山頂記念写真撮るなり雨具を着て先を急ぐ。
この後、日が沈み暗闇の中なので写真はありませんが、第3エイドまでの下りは、再び泥沼地獄と刈り込んで足に刺さりそうな熊笹地獄に再び心が折れそうになったことだけは記しておきます。
第3エイド到着。(武尊牧場スキー場53km、19:54)
安堵のひととき。初めて「完走できるかも」と思えてきた。
ドロップバックが待つ第4エイド(オグナほたかスキー場67km、23:51)に着くとかなり気持ちに余裕が出てくる。まだ半分と考えるか、もう半分と考えるか、選ぶのは自分だ。
汗だくのノースリーブシャツから長袖シャツに着替えて気分もスッキリ。ジェルやエナジーバーも補充し気持ちを新たに出発です。
【7月20日】
ロードと林道を順調に進む。泥沼急斜面に比べりゃイージーだ。夜は景色が見えない分、走ることに集中できる。真っ暗闇を独り黙々と走ってる時、夜空が晴れてることに気づいた。足を止めてヘッドライトを消してみる。真っ黒な森の木々が輪郭となって満天の星空がクッキリと浮かび上がる。ワクワク感で、疲れた身体にもエネルギーが満ちてくるような感覚。今思えば、その時、本当に宇宙の彼方の星々からエネルギーを受け取ったのかもしれない。
そして第5エイド到着。(赤倉林道入口82km、2:09)
第6エイド(樹恵里 前96km、5:32)に到着した頃に夜が明けます。不思議と眠気は感じない。
ひと山越えて最終(第7)エイド到着。(太郎大日堂102km、7:22)
ゴールまで残すところ21km。しかし最後の21kmの累積標高が2000mを超えるので侮れません。やっぱ鏑木さんはマゾだ!と再び思う。出発してすぐに延々と林道のつづら折りをひたすら登る。とにかくキツイ。しかし、お天気が良くて朝の光に照らされた緑の森と雄大な景色に始終、心を癒されたのでキツイけどツライではなかったように今は思う。ツライ気持ちはすぐに消え去るのでその時本当にどうだったかはもうわかりません。未来と同様、過去も頭の描いた幻想でしかありません。
素晴らしいトレイルに下手な言葉は要りません。
雨乞山に入る登山口に入ると、いよいよクライマックス。木漏れ日の気持ち良い尾根道を行きます。溢れんばかりの緑の草木に魅せられながら「トップランナー達はここを夜の間に走るのかぁ。もったいない。遅くて良かった」「100km走った後ではなく、ここだけを走りに来たい。」なんて思いつつ一歩一歩ゴールへ。
ここでちょっとしたエピソードがありました。雨乞山山頂のちょっと手前の最終のウォーターエイドで休んでると、ゴール側から実に軽やかに走って来るランナーがいます。誰かと思いきやコースプロデューサーの鏑木さんでした。あの穏やかな優しい声で「あまりにも暑いので心配なのでちょっと見に来た」そうです。鏑木さんのホスピタリティーに感動。制限時間が気になるのでツーショット写真も撮れずに出発。今思えば惜しいことをした。
出発してすぐ雨乞山へ到着。突然視界が開け、眼下に沼田の河岸段丘の独特な地形が広がる。見たことのない光景に息を飲む。ここまで頑張って走ってきたご褒美だな。残すところ5km。
酷使した大腿四頭筋の酷い痛みをこらえつつ下っていると、後ろから「そんな草鞋(わらじ)でよく走れますねぇ。怪我しませんか?」と声を掛ける人が。誰かと思いきや、なんとさっきウォーターエイドで会った鏑木さんでした。音も無く軽やかな足運びで、あっという間に前方に消えていく後ろ姿は、まるで白馬の王子様(おじさま)のようでした。
雨乞山から下ること3kmで里へ出ます。森の中と違ってカンカン照りの暑いロードに入ると気持ちが萎える。「もう走りたくないわ」なんて思いながも前へ進むと、「見えたぁ!」そう、あの吊り橋。ついにイメージが現実となる。
この橋を渡ればゴールだ。最後の力を振り絞って走ります。
橋を渡ってゴール直前、先にゴールした滝澤さんが出迎えてくれて、写真を撮ってくれました。
120km走ったにしては余裕な感じ? ゴール前は、どんなに疲れていたとしても、脳が身体のどこかにセーブしておいたエネルギーが解放されて湧いてくるのだろうか。
そしてゴール!
時刻は13:10。30時間39分44秒の長い長い旅がやっと終わる。制限時間50分前でした。
フィニッシュゲートの直後、待ち構えていた鏑木さんと固い握手。鏑木さんの視線は、どう見たって僕の足下だよな。この後のコメントは、「よくこんな草鞋(わらじ)で完走されましたねぇ。」といたく感心されました。「草鞋じゃなくてワラーチです。」って駄目出しなんて野暮なことはしません。鏑木さんのホスピタリティーはいつも本当に素晴らしい!
120kmを耐え抜いた脚は、草木で引っ掻いた傷とブヨの噛み跡で痛々しく、筋肉は悲鳴を上げて歩くのもままならないのですが、膝、腰、足首などの関節系や骨は、ほとんど痛みがありません。これこそがワラーチランの神髄!レース中も多くのランナーに「ワラーチで120kmもすごいですね」と声を掛けていただきましたが、もしかしたらワラーチだから完走できたのかもしれません。(実際は何か一つの理由が完走に導いたのではなく、心技体の全ての総合力なんだと思います。)滝澤さん、山本さん、アイスマンさんも無事完走。4人全員完走で喜びは倍増です。
そして最後に、ほぼ無傷で僕の完走を支えてくれた、頼りになる相棒ワラーチに感謝!
-あとがきー
読み返してみるとあまり過酷さが滲みでてない気がする。レース中はもっと辛かったのだが・・・ どうやらレース後の記憶は、辛かったことが速く薄れ、気持ちの良かったところが強く余韻として残るのではないだろうか。だから、また懲りずに、というか飽き足らずにさらにエキストリームなレース探し求めるのだろう。さて次はどんな旅に行こうか。
(終わり)
【リザルト】
通過点 | 到着時刻 | 区間時間 | 通過順位 | 出走数 |
スタート | 6:30:00 | - | 498 | |
エイド1 | 8:21:51 | 1:51:51 | 179 | 497 |
エイド2 | 13:46:34 | 5:24:43 | 257 | 441 |
エイド3 | 19:54:28 | 6:07:54 | 254 | 327 |
エイド4 | 23:51:35 | 3:57:07 | 272 | 298 |
エイド5 | 2:09:16 | 2:17:41 | 245 | 293 |
エイド6 | 5:32:26 | 3:23:10 | 229 | 280 |
エイド7 | 7:21:51 | 1:49:25 | 234 | 267 |
フィニッシュ | 13:10:44 | 5:48:53 | 242 | 263 |
記録 | 30:39:44 | 完走率 | 52.8% |
順位は比較的安定してます。完走率52.8%。第3エイドまで到達できなかった人がとても大勢いたようですが、やはりあの泥沼の影響が大きかったのではないかと思います。このコースを完走するには、やはり心技体の総合力が必要とされます。