マイラーへの道〜信越五岳トレイルランニングレース2017
トレイルランニングの世界では、100マイルレース完走者は特別な尊称として「マイラー」と呼ばれる。
5年ほど前、歳男で始めたランニングも、少しづつ距離を延ばし、ハーフからフル、そしてウルトラへ。ロードからトレイルへ。シューズからワラーチへ。裸足ランとか一本歯下駄とかどんどん世界が広がって行く。そんな中でいつしか「自分もマイラーになりたい」と思い始める。
距離だけなら、5月のTDT100マイル 、6月の甲州街道鳥の旅215kmで経験済み。
しかし、いずれもロード主体だ。ロードとトレイルは全く別物。やはりトレイルを100マイル走ってこそマイラー。
その一歩として、昨年の9月にUTMFに初挑戦。距離165km、累積標高7500m、日本最高峰のトレランレースだ。ところが悪天候のため、まさかのコース短縮で50km弱になってしまいマイラーを逃す。 ystiseki.hatenablog.com
今年は昨年の悪天候の問題でUTMFは中止になってしまった。マイラーは来年まで持ち越しだ。
そんな折り、いつか走りたいと思ってた超人気レース、信越五岳トレイルランニングレース(110km)に新たに100マイルが創設されるという。こりゃエントリーしない手は無い。万全の体制でクリック競争を勝ち抜き0次関門を突破した。
そして迎えたマイラーへの2回目の挑戦。なんと台風接近により、またしてもコース短縮。黒姫エイドまでの102kmになってしまった。またしてもマイラーを逃す。
しかし、中止にならなかっただけありがたい。台風は近づいている。これ以上、距離短縮にならないことを祈る。
9月16日レース当日。
新幹線でレース会場へ向かう。スタートは夜の19時半なので、朝立ちで十分間に合う。早めに自由席に並べば座れるだろうと高を括ってたら三連休の大混雑で座れず。東京駅から飯山駅まで1時間半、すし詰めの車両デッキで立ちっ放し。こんなところで脚を使ってる場合じゃ無いのに・・・
現地到着。
どんよりとした曇り空。お天気が良ければ、走りたくてうずうずして高揚するところだが、台風の進み方によっては、さらなる距離短縮や打ち切りもあり得るので気持ちは抑え気味に。必携装備のチェック、選手受付を済ませ近くの仮眠所へ移動。パッキングを確認して1時間半ほど仮眠する。
再びスタート地点へ戻る。
ちょうど110kmの部(こちらは52kmに短縮)の前夜祭中。乱入?して仲間達と記念撮影。走り始めた頃はほとんど知り合いがいなくて、レースは1人で行って、1人で帰ってくるものだったけど、この5年間に随分と仲間が増えた。お陰で別に示し合わせたわけでなくても、レースに行くと誰かしら仲間がいて、冗談言い合ったり、お互い励まし合ったりできることに幸せを感じる。
みんな、ありがとう!
そしてようやくスタートラインに立つ。
【スタート(斑尾高原レストランハイジ)】(19:30)
いざ出陣!
コースの両脇に延々と続く応援者の花道をハイタッチしながらゆっくり進む。ようやく気分が高揚し始める。
それが途絶えるとその先は暗闇。ヘッドライトの列がずっと連なって暗闇に吸い込まれていく。
走り始めは皆んなハイペースだ。隊列で走ってると自分のペースを掴みにくい。ちょっと速いなぁと思いながら走ってると、5月にTDTを一緒に走った女性ランナーの宮崎さんの後ろにつく。裸足ランナーの話題から着地時の膝抜きについての話へ。人に教えられるほどの達人には程遠いが、自分なりのイメージを言葉にして伝える。伝えながら彼女の走りを見ていたんだけど、縦にも横にもブレがなく、滑らかでとても綺麗なフォームだ。これだったらアドバイスするまでもないなぁ〜なんて思ってたら置いてかれた。速いんだもん。事実、彼女はこの後、素晴らしい走りで入賞したんだからマジで速い! 後で知ったが、脚に故障を抱えていたそうだ。故障を抱えてるからこそ、着地とか走り方に関心があるのかもしれない。僕は速く走る方法は伝えられないけど、故障しない走り方なら、少しは伝えられることがあるかもしれない。
【菅川19km】(OUT21:30)
目標タイムより50分速い。ここはウォーターエイドなので水を補給してすぐ出発。台風が近づいてるので少しでも前へ進んでおきたいという気持ちもありペースを落とさず走る。昼間だと素敵な景色に出会ったら脚を止めて写真を撮ったりするのだけど、夜は只々走るのみだ。
【バンフ24km】(IN22:40 OUT22:46)
目標タイムより1時間ほど早い到着。斑尾山の山越えでかなり脚を使ってしまった。ここからはちょっとペースを落とすことにしよう。
信越はエイドが充実してると聞いていたので、行動食は最小限にしてエイド中心に補給するつもりでいたけど、ちょっと寂しい品揃え。あまりに充実してるとエイドに長居してしまうので、時間短縮には良かったもしれないが・・・
気持ちの良いトレイルが続く。昼間だったら素敵な景色が見えたはずだ。夜走るのはもったいないと思う。 トップランナー達は早朝にゴールするのだからほとんど景色を見ることができない。自分は遅いので半分くらいは昼間走る。早く夜が明けて欲しい。
【赤池37km】(IN 1:04)
この区間はほぼ目標ペースで走れた。
夜走るのは、景色が見えずもったいないので好きではないが、走ってると眠くならない体質なので夜通し走るのは得意だ。二晩くらいはいける。走れメロスじゃないけど、ここぞという時にはきっと役に立つだろうな。そんな一大事は無い方が良いけどね。
ずっと風雨を心配して走ってたけど、とても穏やかだ。森の中は風が木々に遮られて吹き抜けないからだろう。風の音だけが聞こえる。森は優しい。
ふと空を見上げると満点の星空。しばし脚を止め、ヘッドランプを消して真っ暗闇の中で独り星空を愛でる。
【アパリゾート妙高56km】(IN4:51 OUT5:14)
目標タイムより1時間ほど早い到着。バンフからは、速過ぎず遅過ぎの良いペースで走れたが脚は重い。やはり初っ端の斑尾山越えでペースを上げ過ぎたのが原因だろう。トレイルランニングは奥深い。
「100マイル走ることについて知っておくべき10のこと」というブログ記事がある。 www.thecleanestline.jp
ペース配分やエイドの過ごし方などとても役に立つことが書いてあるので、超長距離レースの前には、いつも読み返したい。読んだからと言って書いてある通りに走れるかというと、これがなかなか難しい。心も身体も思うがままにはならないもの。超長距離は「走力」だけで走り抜くことはできない。心と身体の総力戦なのだ。「走力」より「総力」
エイド滞在中に夜明けを迎える。
夜中に雨が降らなくて良かった。しかも奇跡のような青空。ここからは自分らしく、景色を愛でながらのんびり進むとしよう。
機具池というらしい。朝の光を浴びればどうってことのない池も、神々の庭と化す。
こういうのを信越らしいトレイルって言うのかな。この後、どんな景色と出会えるか楽しみだ。
里へ降り長閑な農道を走る。
100マイルコースの北端にあたる。
両脇には美しい稲穂が深くこうべを垂れる。収穫の秋は近い。
里を離れ再び山へ向かう。
関川沿いの土手道を走る。川上に向かうので、走れるくらいの緩やかな登りが延々と続く。走れると言ったって登りは登り、走るとかなりキツい。走れないくらいの登りの方がいっそ楽かもしれない。
関川を離れ、里を抜けて、西側の山岳地帯へ向かう途中、次のエイドの手前でワラーチのユカさんが追いついてきた。きっと前半を抑えてたんだろうな。自分もそうしておけば良かったと思っても後の祭り。あっさり追い抜かれる。
マイラーを目指す同志だ。
【妙高自然の家71km】(IN7:58)
この区間は15kmなんだけどやけに長く感じた。ほんとに距離あってんのかなぁ。目標タイムの20分前。だいぶ貯金を使い果たした。
このエイドは、地域の子供達がボランティアをやってくれてる。皆んな一所懸命で微笑ましい。ここで飲んだトマトスープは絶品でした。
子供達に見送られてエイドを後にする。
この後、また山に入る。
藤巻山へ登る途中にパッと視界が開けて、遠くに海が見えた。
こんな一瞬が好き。
藤巻山への急登。なんだかハセツネっぽいなぁ〜なんて思いながら登る。
藤巻山を下り、関温泉を通って、しばらくロードを走ると赤倉のスキー場地帯へと入る。
この斜面、ゲレンデです。
ジグザグに巻いて登るんだけど、笹を刈って土を露出させただけなので、トレイルが斜めってます。自分も西湖(富士五湖)湖畔でトレイル整備やってますが、山側の土を削って谷側に移して路肩を作り、トレイルをなるべくフラットにします。ゲレンデなのでそれができないのか、人手が足りないのか、あるいはそこまで甘やかすことないということなのか。危険なわけじゃないのでこれはこれで構わない。差し出されたトレイルを受け止めるまでだ。
しかし、悪いことに、この斜面を登り始めてすぐに雨が降り出す。慎重に足を置くが、トレイルが斜めってることもあって、ワラーチのフットベッドに土砂を巻き込み、雨水でヌルヌルになって足裏が滑り出した。ワラーチの最も不得意なシチュエーション。なす術なし。こうなるとワラーチの紐だけが頼り。
足とワラーチがバラバラに動こうとするのを紐でしっかりと繋ぎ止める。全体重がのし掛かって強烈なテンションが掛かっても切れず、かつ、食い込んで皮膚を傷つけないしなやかさが必要とされる。そのために僕のワラーチは10mm幅の極太のボシェト革紐を使う。今回もしっかりとサポートしてくれた。やっぱり頼りになる相棒。
ゲレンデを登りつめた所で予備ワラーチに切り替える。
手前がここまで履いてきたワラーチ。
奥が予備ワラーチ。違いはフットベッド。どちらもノンスリップシートと呼ばれる軟質塩ビのシートをフットベッドに採用しているが、予備ワラーチはエンボス加工が施されている。その分、排水性が良いので滑り止め効果は高い。ただし、凹凸があるので触感は劣る。今回はスタート時に雨が降ってなかったので、走り出しは快適なエンボス無しのタイプをチョイス。そのせいもあって、さっきのゲレンデ斜面はあっという間に滑り止め効果を失ってしまった。エンボスタイプだったら難なく登れたかもしれない。こう言う経験の積み重ねが、次に役立つ。
今度はゲレンデを下ります。
エンボスタイプなので足裏の滑り皆無で快調に駆け下りる。
【赤倉89km】(IN11:48)
残すところ13km。制限時間まで約3時間。これがロードなら余裕有りだがトレイルは何が起こるかわからない。気を引き締めてゴールを目指す。
信越らしい極楽トレイルと「そんなの聞いてないよぉー」って感じのエグいゲレンデの繰り返し。まさに飴と鞭だ。
ゲレンデは人工斜面なので気持ち良さが本来のトレイルに比べると劣る。それにしてもこのコース、ゲレンデが多すぎる。やはり100マイルもの距離を山道だけで繋ぐというのは難しいことなんだなと思う。
時々こんなトラップも。ドロ沼はワラーチの鬼門。さてどこを通るか・・・
飴と鞭のゲレンデ地帯を抜け、里へ出て一息。秋桜に癒される。
再び関川沿いの緩い登りをノロノロと走る。朝走ったところより上流なので川幅が狭くなっている。
川沿いをしばらく走ると宴会隊の私設エイドがある。
ここは、公式エイドと被らない、麦茶、梨、グレープフルーツがあってほんとに有り難かった。同じものばかり食べてると飽きて食べる気がなくなる。食べないと走れない。何をどのように食べるかは超長距離の「総力」の一つだ。
最後は走りに集中。
どんなに疲れていても、たいがいラスト2〜3kmは脚が動くのだ。脚を完全に使い切らないよう、意識しないところで頭がコントロールしてるに違いない。
そして、ついにゴ〜ル!
距離102km、19時間17分48秒の旅が終わる。
結局、目標タイムより1時間オーバー。
一応、ギリギリで完走ペースには入ってるが、もしこのまま100マイルだったとして果たして完走できたのだろうか・・・
脚は残ってるので走り切ることはできただろうが、制限タイムに間に合ったかどうかは微妙。
今回は訳あってペーサー無しで走ったが、もし100マイルだったら、残りの60kmを制限時間内に走り抜いて完走するためにはペーサーが必要だったかもしれない。
マイラーへの道は続く・・・
最後に、頼り甲斐のある相棒に感謝!